健康経営促進要因としての健康文化

健康経営促進要因としての健康文化

1) 健康文化への着目

近年、職場の「健康文化(Culture of Health)」が健康リスクの改善を促進し、生産性維持・向上につながるといわれ、健康経営を推進する上で注目されている。つまり、「健康文化」は健康経営の促進要因といえる。

健康経営の推進のためには、健康と生産性をマネジメントする介入プログラム内容の良し悪しではなく、介入プログラムの効果を上げるためにも「健康的な組織文化」の醸成が重要であるというエビデンスが蓄積されてきている(Flynn et al. 2018)。健康的な組織文化の要素は、「安全・健康への組織の方針」、「支援的な職場環境」、「コミュニケーション」の3つである。これは、組織のトップが健康経営宣言を行い、従業員の健康課題に取り組むことを明文化すること、健康的に仕事ができる職場環境を整備すること、そのためにも従業員間、組織トップと従業員間のコミュニケーションが円滑なことが重要であると考えられる。

日本では健康経営度調査等を通じ、経営層や組織の視点から健康経営の取り組みが評価されている。従業員に健康経営の取り組みがどのくらい浸透しているのかを測るためにも、従業員視点での「健康文化」の評価が有効である。

国内の動向としても、労働安全衛生法の基づく事業場における労働者の健康保持増進のための指針(THP; Total Health promotion Plan 指針)の中でも、基本事項として職場における健康保持増進活動の実施において事業者が健康保持増進活動の方針を表明することが挙げられている。そして、健康保持増進対策を推進する上での留意事項として「労働者が健康保持増進に取り組む文化や風土を醸成することが望ましい」とされており、健康や安全に対するトップの姿勢や職場文化の重要性が指摘されている。

2) 【研究紹介】健康経営優良法人の認定有無による健康文化の比較

  • 文献レビューを基に作成した健康文化の指標20項目を用い、健康経営優良法人の認定の有無による健康文化の醸成度を検証した。
  • 調査会社が有する一般就労者パネルを用いたWeb調査を(2020年2月末に実施した。対象者を健康経営優良法人認定の有無の2群で従業員各1000名の回答を目標とし、計2060件の回答を得、1999件を分析対象とした。
  • 「健康文化」20項目全てにおいて健康経営優良法人の認定を受けている企業・組織の従業員において「強くそう思う・まあそう思う」の割合は高く、20~40%ほど各該当割合に差があった。
  • 「健康文化」の得点(Range=0-20)は、健康経営優良法人に認定されている企業・組織の従業員(14.0±5.5)のほうが認定を受けていない企業の従業員(7.4±6.0)より有意に高かった。認定を受けている大規模法人部門と中小規模部門での得点に有意差はなかった。

表.健康経営優良法人の認定有無別の従業員の「健康文化」得点状況

津野陽子, 尾形裕也, 渋谷克彦, 高橋由香 (2021). 職場における「健康文化」と健康経営優良法人の認定の有無の関連性 [会議録]. 産業衛生学雑誌, 63(臨増), 358.

【参考資料】

  • 高橋由香, 津野陽子, 大森純子. (2021). 健康経営における「健康的な職場文化」の指標化に向けた文献レビューによる概念整理. 日本健康教育学会誌, 29(1), 3-15.
  • Flynn, J. P., Gascon, G., Doyle, S., Koffman, D. M. M., Saringer, C., Grossmeier, J., Tivnan, V., & Terry, P. (2018). Supporting a Culture of Health in the Workplace: A Review of Evidence-Based Elements [Review]. American Journal of Health Promotion, 32(8), 1755-1788.
  • 事業場における労働者の健康保持増進のための指針(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/000748360.pdf