日本における健康経営の推進
日本における健康経営の推進
1) 社会背景
生産年齢人口の減少、65 歳までの継続雇用(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)、育児・介護離職の問題等の社会背景において、働く世代の健康維持・増進及びその生産性の向上は、個々の企業や組織にとって大きな経営課題であるだけでなく、超少子・高齢社会において人口減少社会に突入した日本全体の課題である。国民の平均寿命の延伸に対応して、「生涯現役」を前提とした経済社会システムの再構築が必要とされている。働く世代の健康維持・増進および生産性の向上は、企業や組織にとって大きな経営課題であるとともに、働く世代は、生活習慣病を発症するリスクの高い集団であり、職域における健康維持・増進への働きかけが強く求められている。医療費増大が課題とされるが、欧米の先行研究では、医療費1ドルに対して傷病による生産性損失コストは平均2.3ドルと傷病による労働生産性の損失コストのほうが大きいことが示されている〔Loeppke et al.(2009)〕。医療費は従業員にかかる健康関連総コストの一部にすぎず、傷病による生産性損失コストが最も大きい。
2) 日本における健康経営の現状
日本においても、「企業にとって従業員の健康づくりは重要な経営課題」(データヘルス計画作成の手引き2014年12月厚生労働省)として、従業員の健康・医療の問題を経営課題と捉え、経営戦略に位置付ける健康経営が推進されている。従業員の健康が生産性に影響することが知られるようになってきた。企業では従業員の健康関連コストを考えるとき、医療費に加え、生産性損失費用を含めた総額で捉えられるようになってきている。職場における健康関連の生産性は、アブセンティーイズム(病欠、病気休業)とプレゼンティーイズム(何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態)の両方で捉えられるようになってきた。この二つを合わせて生産性と捉えた場合、特にプレゼンティーイズムの損失が大きいことが注目されている。医療費と生産性損失コストを合わせた健康関連コスト全体の削減のための戦略は、経営者にとって大きな関心事であるが、この取り組みは従業員の健康に直接的に良い影響を及ぼすだけでなく、生産性の向上にもつながり、組織の業績にも波及することが検証されてきている。そのため、研究者、実践者である組織の両者において健康と生産性の両方をマネジメントする認識が広まった。
3) 健康経営の推進
日本では健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略の目標の1つである「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つとして位置づけられている。健康経営に関連して、データヘルス計画、コラボヘルス、健康経営銘柄、健康経営優良法人などの取り組みを通じ、社会的にも健康経営に取り組む機運が高まっている。健康経営に係る各種顕彰制度を推進することで、優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」し、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価を受ける環境が整備されてきている(経済産業省)。経済産業省では、健康経営に係る各種顕彰制度として、2014年度から「健康経営銘柄」の選定を行っており、2016年度から日本健康会議と共同で「健康経営優良法人認定制度」を創設している。上場企業に限らず大規模法人のうち保険者と連携して優良な健康経営を実践している法人について「健康経営優良法人〜ホワイト500〜」、協会けんぽ等の保険者の進めている「健康宣言」に取り組んでいる中小企業、中小規模の法人から「健康経営優良法人」として認定・公表する制度である。日本においては、データヘルス計画により、母体組織と保険者のコラボヘルス(健康保険組合等の保険者と事業主の積極的な連携)により健康経営を実行していくことが推進されている。
健康経営優良法人においても医療法人、社会福祉法人等の認定数は増えており、企業同様、医療機関においても健康経営への関心は高まっている。医療機関においても健康経営を推進し、社会的評価を受けることは、医療機関の価値向上につながるだろう。
健康経営優良法人による顕彰制度
<参考>
中小規模法人部門では、加入している保険者(協会けんぽ支部、健康保険組合連合会、国保組合等が実施している健康宣言事業に参加し、申請する。